鎌倉の山の方でお昼ご飯を食べていると隣の雑木林から鳥の声が聴こえてきた。
「ホーホケキョ ホーホケキョ…」
閑静な住宅地の中の一軒家、初夏の空気に共鳴するその響きはとても心地よく絶好の天然BGMだが…。
ハリがある美声が途切れることはなく続く。そして抑揚がなく一本調子だ。
「ホーホケキョ」の鶯は(春告鳥)というように初春に山里から人里へやってきて、柔らかな強弱をつけて鳴く感じだが、季節も音色も何か違う。
あまりに囀りが続くので、CDか何かで演出しているのかと思えてきた。であれば無論興醒めではあるが。JRの目白駅や鶯谷駅でそんな音が流れていた気もする。トイレの音消しも鳥たちの囀りがあった。(笑)
店の方に尋ねてみた。「気がつきましたか。そうなんです。物真似上手のガビチョウと言います。」
「ガビチョウ?」里山や雑木林のない都内では聞いたことも見たこともなかった。
このガビ鳥、スズメ目ヒタキ科の20㎝ほどの明るい茶色をしている。「画眉鳥」と書き、名前の由来通りクレオパトララインかそれともマンバメイクのアイライナーか、目の周りから続く白い筋状の斑紋が伸びる。中国原産で元来、中国南部から東南アジア北部にかけて分布する。ウグイスやキビタキの囀りを真似するだけでなく、ツクツクボウシや犬の鳴き声までも模倣するようだ。真似でない本来の鳴き声はどうなのかはわからない。日本では80年代以前までとても人気があり盛んに輸入されその後は人気がなくなったようだが、この数十年の間に日本でも広い範囲で棲みついた。人為的に持ち込まれ、野生化して留鳥となったいわゆる「かごぬけ鳥」である。だから日本では野鳥図鑑には載っていない。現在は特定外来生物に指定され、特に生態系に深刻な打撃を与える侵略的外来種のワースト100と悪名高いレッテルが貼られている。
そういえば昔よく観た香港のカンフー映画には鳥かごがよく出てきた。だいたいは武術の達人がギャングの親分に登り詰め、静かな余生を送っているシーンに登場する。何を象徴し何の暗喩かはわからないが、鳴き声を聞くために鳥を飼うことは中国では古来から文人の高尚な趣味だったようだ。香港には今もバードガーデンがある。綺麗な鳥籠に入った愛鳥を持ちあって公園に集まり、互いの鳥の鳴き声を聴き比べるのも隠居老人の趣味のようだ。この囀り上手、お喋り好きのガビ鳥も人気があった愛鳥であったろう。人間様が商売で勝手に運んで、今は「侵略的外来種」として駆除の対象になる。そして地味で可愛くない、騒々し過ぎると攻撃される……。
ガビ鳥は画眉鳥で何も変わらない。
人間が彼らの運命を翻弄し、そしてそのイメージを勝手に操作する。
記事にコメントする