秋の七草知っている? 言えるかな‥。
中学受験の理科では「お好きな服は?」〈オ・ス・キ・ナ・フク・ハ〉と教える。評判もよく定着もいい頭文字を並べる暗記法のひとつだ。
オミナエシ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、フジバカマ、クズ、ハギ
子供の頃覚えたこの類はおそらく一生忘れない。彼らが大人になって秋の七草と出会うとき、オスキナフクハ……と浮かべ、続けて塾のことを思い出すこともあるだろうか。いい思い出ならいい。笑
先日、秩父にある石灰岩の山〈武甲山〉の資料館に行った。秋晴れの日、久しぶりのバイクの振動、シールドに当たる柔らかい風が気持ちよい。武甲山資料館は武甲山の麓、芝桜で有名な羊山公園という秩父丘陵の上にある。
石灰石はセメントやコンクリートの原料として建築現場や道路などの土木工事には欠かせない。また製鉄のプロセスでも必須の副材料である。
大正期、関東大震災後の復興や第一次世界大戦による需要を受けてこの武甲山の採掘が始まる。その後昭和になると戦後復興とその後の高度成長を支えていく。その昔霊峰といわれたこの武甲山の姿は時代とともに変わっていく。その削り取られた象徴的な山容は社会の発展や便利さの享受の代償である。遺構と言えるかもしれない。
資料館に向かう公園の小径の傍に秋の七草のフジバカマがそこかしこと乱れ咲いている。小豆色の花弁に囲まれた米粒大の花が立ち並び、伸びた雄しべが糸屑のように絡み合う花が独特だ。その藤色と形が筒状で袴(はかま)の折ひだに似た筋があることが「藤袴」という名の由来といわれる。万葉の時代から日本人に愛される野の花であるが、今では絶滅危惧種に指定され野生のものはほとんど見られない。乾燥した葉は甘い芳香を放つようだ。
傍らでじっと佇んでいらっしゃったアマチュア写真家の方としばし会話をする。
アサギマダラという渡りの蝶がいる。渡り鳥は馴染みがあるが、渡りをする蝶は珍しい。この蝶はフジバカマの花の蜜が大好物で、日本全土にとどまらず台湾や東南アジア へ1000〜2000Kmの距離を飛び渡る「旅する蝶」だ。オスが性ホルモンを分泌するためにこのフジバカマの花に含まれるピロリジジンアルカロイドという物質を摂取するといわれている。このアルカロイドは毒成分でもあり、天敵である鳥たちがこのチョウを捕食するとかれらは具合が悪くなり、その後は襲わなくなるという。毒がチョウの長旅の守護札なのだ。
写真家さんはそのアサギマダラが飛来する瞬間を待っている。この秩父でもアサギマダラを呼ぶためのフジバカマの植栽が行われている。今年はすでに秩父で飛来が見られたようだ。この場所に植えた花々に集い、吸蜜する優雅な彼らの姿を捉えるために…。
「羨ましいなぁ」贅沢な時間の流れに、つい嫉妬してしまう。
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