先生 模範解答教えて?

谷原中 某先生の中学3年生最後の授業。黒板に書いた人生訓五カ条(?)を、返却した答案用紙に写させた。先生の卒業する生徒に対するはなむけの言葉だろう。
その一つに「買っても苦労しろ」という文言があった。

「ウーン」思わず唸ってしまう。「で、これどういうことかわかる?」と私。「わかりません」と生徒。 数年前の塾でのやりとりだ。

このフレーズ、僕の母がよく使っていた記憶がある。「ほら、人生買っても苦労しろっていうじゃない」という感じで‥。母は昭和一桁の世代だ。

買っても苦労した方がいいというのは一体どういうことだろう。苦労をしないことを買えるのであればそっちを買った方がいいに決まっている。苦労は避けるべきものであるはずなのに‥‥苦労礼賛(?)とは、いったいどうして?。

母が何を伝え、いや呟きたかったか、解読作業をしてみよう。

一つはこういうことか。
【これから先の人生、どんな艱難辛苦が待ち受けているかわからない、だからそれを乗り切るための耐性をつけなければならない。】これは、人生は楽しく美しいバラ色ではなく、かの家康が言う「人生とは重たい荷物を背負って歩くが如し」のように、人生が安易な行路ではないという前提に立っている。いや人生観というより覚悟という方が適当かもしれない。仏教をはじめとして老病死が避けられない苦だからこそ、思想や宗教が生まれるのであろう。しかし《生きるのは大変なんだ》《これから苦労するんだ》というのは、ともすれば、生きるモチベーションも減衰させてしまう懸念もある。母が生きた激動の時代と今は確実に違う。

もう一つ、【苦労は人をつくる】ということ。様々な苦労を乗り越えた人は、 本当にかけがえのないものや人の優しさを理解し、人格者として愛され、尊敬される。ブッダの境地だ。確かに、柔和に微笑む老人の手や顔に刻まれた幾重もの皺や襞に、時に人間の尊厳と愛おしい気持ちを感じる。でも、苦労を乗り越えられないこともあるし、苦労が卑しさをつくりだすこともある‥‥。

彼は何を伝えたかったのだろう。自分の人生訓であればそれでいい。しかし教師がそれを次代を生き若人に伝える以上、その意味を伝える必要がある。今の時代の中で、説得力をもつ言い方で‥‥。先生 この難問の模範解答を教えて下さい。

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