魚から人へ
扁桃体の暴走ー「うつ病」とは

脳科学と進化生物学的に、〈うつ病〉発症のメカニズムが解明されつつあるようだ。(『解釈されつつある』という方が適当かな?)  ( 以下、2014年までに放映された番組をもとに構成)

  鍵を握るのは「扁桃体」。扁桃とはアーモンドの別名で、IMG_1380形に由来した名前である。大きさは直径約1cmほど、これが脳の側頭葉の奥深くにあり、不安や緊張、恐怖などに対して反応するはたらきを担っている。この「扁桃体」のもう一つの主な役割は、何らかの衝撃的な出来事が「海馬」を通して大脳に記憶したり、思い出したりする際に、それがいい出来事か、悪い出来事か(快か不快か)の感情情報を発信することである。

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無題   われわれ人間(脊椎動物)の祖先は《ナメクジウオ》。ウオといってもまだ背骨がなく、脊索という脊椎の原型をもつ。この後、海に最古の魚アランピダスが登場する。今から約5億2千年前のことである。その頃の海は、エビ・カニなどの節足動物が繁栄し、中でも最も強力だったのがオウムガイであった。誕生したてのひ弱な魚たちは、天敵オウムガイの攻撃に晒される中、体を集中的に制御する「脳」が発達し、さらに外敵から身を守る防衛力として「扁桃体」が生まれた。この扁桃体が外敵から身を守る働きは、次のようなプロセスによる。

    危険を察知する→扁桃体が活発化→ストレスホルモンの分泌→全身の筋肉が活性化し、運動能力が高まる→天敵から素早く逃げる

  このようなメカニズムによって外敵からから生き残ることができたわけである。
この、魚に始まる「扁桃体」の役割は、攻撃に対する防衛中枢の担い手といえよう。例えて言うと、専守防衛、日本の自衛隊ということになるかな。(ちょうど今、国会が憲法第9条の第3項追加案でもめているが‥‥。)

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   では、この「扁桃体」の、天敵に対する本能的な対抗機能が一体どうして〈うつ病〉を引き起こすのだろうか?

IMG_1379 「扁桃体」とそのとなりにあって記憶をつかさどる「海馬」、そしてもう一つ「DLPFC(背外側前頭前野)」の3つは、互いに影響し合いながら連携して活動する。
「海馬」がストレスホルモンの分泌を制御する働きをもち、「DLPFC」が「扁桃体」の暴走を鎮める役割を果たす。しかし長期間のストレスが蓄積し、「扁桃体」が過剰に反応し続けると、「DLPFC」が正常に機能しなくなる。この「DLPFC」は、思考・判断・意欲をつかさどり、これが機能しなくなると、判断力が衰え、意欲も低下することになる。また、「扁桃体」 の暴走によって過剰なストレスホルモンが分泌され続けると、そのストッパー役の「海馬」が制御不能に陥り、破壊され、萎縮してしまう。これにより記憶力が減衰する。こうして判断力が鈍り、意欲がなくなり、そしてもの忘れも多くなる、〈うつ病〉の症状が現出するのだ。
皮肉にも、自己防衛のための「扁桃体」が自己に刃(やいば)を向けることになる。

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 「扁桃体」はまた「海馬」との連携において《記憶》に重要な役割を果たしている。ある女優は、演技で涙を流さなければならない時、過去に出会った悲しい場面を思い出すという。反対に、私たちも電車の中で《思い出し笑い》をして、前の乗客にいぶかしがられたこともあるだろう。(笑)これは、過去の出来事が、快や不快という感情を伴って、記憶されることを意味する。

  「扁桃体」は《好き嫌い》や《快不快》の感情情報をとなりの「海馬」に伝える。この「海馬」は記憶全体をつかさどる司令塔といわれ、ここにデータを一時的に保存したり、または大脳皮質にデータを送り、長期保存をする役割をもつ。さらにこの長期保存されたデータを呼び出す。まさにこれが《思い出す》ということだ。そして特に「扁桃体」を激しく活動させる出来事は、強い記憶として記憶に留める作用をする。結局、ある衝撃的な出来事が起きると、まず「扁桃体」は過剰に反応し《恐怖の記憶》として、脳に焼きつけられる。この《恐怖の記憶》は繰り返して思い出され、さらに「扁桃体」を活動させることになるわけだ。PTSD(心的外傷後ストレス障害)におけるフラッシュバック(追体験)が例だ。

  進化の過程の中で、常に危険と隣り合わせの厳しい環境を生きていた私たちの祖先は、「恐怖の記憶」によって、繰り返す危険を回避し生き延びてきた。しかしここでもその《記憶》のメカニズムが〈うつ病〉を引き起こす結果となったのだ。

  このように人類は進化のたびに《天敵》《孤独》《記憶》《言葉》といった「うつ病」の種を抱え込んできた。

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  脳科学の進歩による「うつ病」の原因の解明(一つの仮説に過ぎないが)や「うつ病」と《ストレス》の関係についての研究の進歩によって、先進的な診断法や治療法が試みられている。

【診断法】光トポグラフィー検査 (NIRS)
前頭葉の血流量を測定することでDLPFCやその周辺の脳の働きを調べる。被験者が簡単な質問に答えていく過程で測定が行われ、その波形により抑鬱状態の原因を診断する。波形の違いに応じて《統合失調症》《双極性障害》も診断できる可能性がある。従来の医師の問診に加えた、客観的な診断法。(精度は60〜80% 2014年4月より保険適応となる)

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【治療法】
●経頭蓋磁気刺激(TMS)
DLPFCを活性化するために、磁気を当てて、前頭葉の血流量を増やす方法。キツツキが木を叩くような音とともに磁気を40分程度あてる。病状が改善するまで日々続ける。(薬剤に比べて副作用はないといわれるが、現在の時点で検査が機器があり治療を受けられる医院はまだ少ないようだ。保険外となっている)

●脳深部刺激(DBS)
直接、脳の「25野」に電極を与える外科的手術
パーキンソン病の手術では一般的のようだが、うつ病の治療法としては確立していないようだ。


   (参考 引用 NHKスペシャル 病の起源 うつ病〜防衛本能がもたらす宿命 2014年放映
                     NHKスペシャルここまできた!うつ病治療 2012年2月放映)

 脳とストレスの関係について、東邦大学生物学科HPのコラム

          http://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/029758.html

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