ぜったい

 生命科学の第一線で研究活動をしていた中村桂子さんが主に若い女性に向けて発信した著書〈ふつうのおんなの子〉(2018年集英社)  

 この本は科学の限界や文明論そして男性社会の批判からジェンダー論まで、まるでおんなの子のおしゃべりのように、幅広い話題をやわらかく繰り出してくれる。またお勧めの児童文学を、自分と本との出会いや作家のエピソードを散りばめて、わかりやすく紹介している。あとがきの最後は、〈八十年以上ふつうの女の子であり、これからもそうありたいと思っている 中村桂子〉と締めくくっている。

 この本の中に次のようなくだりがある。

 「私はアインシュタインのような天才ではありませんし、カントのように難しい哲学を考えるのは苦手ですが、なぜ戦争などするのだろうという問いは考え続けており、心の中では戦争が人間の本性であるとはどうしても思えないという結論を出しています。

 私は戦うことが嫌いです。絶対という言葉はあまり使いませんが、これは絶対にイヤです。自分が戦うのがイヤであるだけでなく、戦争に関するニュースを見たり聞いたりするのもイヤです。(続く)」

 そして作家の半藤一利さんの絵本「焼けあとのちかい」(2019年大月書店)

 「あのときわたくしは、焼けあとにポツンと立ちながら、この世に「絶対」はないという、ということを思い知らされました。絶対に正義は勝つ。絶対に神風がふく。絶対に日本は負けない。絶対にわが家は焼けない。絶対に焼い弾は消せる。絶対に自分は人を殺さない。絶対に‥、絶対に‥。それまで、どのくらいまわりに絶対があって、自分はその絶対を信じてきたことか。そしてそれがどんなにむなしく、自分勝手な信念であったかを、あっけらかんとした焼けなあとから教わったのです。わたしが死なないですんだのも偶然なら、生きていることだって偶然に過ぎないではないかー。そのとき以来、わたくしは二度と「絶対」という言葉はつかわない、そう心にちかって今日まで生きてきました。しかしいま、あえて「絶対」という言葉をつかってどうしても伝えたいたったひとつの思いがあります。」

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 この「絶対‥」「絶対‥」のリフレインには思わず涙する。昭和の史実をリアルに書いてきた客観的で冷静な作家が、言葉にならないあふれ出る感情を連呼する。

 中村桂子さんは84歳の時に、半藤一利さんは90歳で亡くなる約1年半前、お二人とも、人生を80年以上生きてきて、子供や若い人向けにやさしいことばでメッセージを伝えている。

「絶対」はない。けれど「絶対戦争はいけない」と。

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