北極とヒグマ
ー石川直樹 「この星の光の地図を写す」

   冒険家&写真家の石川直樹氏は、3歳で生誕地渋谷区笹塚を離れ、今回の展覧会が同じ笹塚にIMG_2714あるオペラシティで開催されるという凱旋イベントだ。今までの写真だけでなく、彼とともに旅をしたザックやテント、細かな備品や携行品にいたるまでが展示されている。展示というか、彼がいないテントに入ったような感じでで並べてある。簡単な説明が付箋に自筆メモで貼り付けてあるのも野趣がある。

 

IMG_2702彼はズームレンズを使わず、単焦点レンズのカメラを使う。それは自分と被写体との距離がそのまま作品に写り込むからだと言う。自分がどれだけ近づけるのか、それは単なる物理的な意味ではなく、その距離感を大事にしたいのであろう。のまま作品に写り込むからだと言う。自分がどれだけ近づけるのか、それは単なる物理的な意味ではなく、その距離感を大事にしたいのであろう。のまま作品に写り込むからだと言う。自分がどれだけ近づけるのか、それは単なる物理的な意味ではなく、その距離感を大事にしたいのであろう。

IMG_2707  展示されている写真は決してアーティスティックなものではなく、ふつうの旅のスナップが多い。いやふつうといっても場所は北極や南極など辺境地である。そこで〝ふつうに〝暮らす人がいることを伝える。だから写真を鑑賞するというよりは、彼が見た風景を追体験することで、自分の外の未知の世界と出会い、地球を感じる、そんなVR体験という感覚になる。彼はこう記している。「家の玄関を出て見上げた曇った空こそがすべての空であり、家から駅に向かう途中感じるかすかな風の中に、もしかしたらすべての世界が、そして未知の世界に至る通路が、隠されているのかもしれません。」

   ニュージーランドの原始林の写真〈VOID〉のコーナーにあったこんなキャプションが印象に残った。

「ニュージーランドの鬱蒼とした原生林は人間から隔絶されたために美しい姿を保っているのではない。マオリというよき理解者が畏怖の念をもって 森とつきあってきたからこそ、今の状態を保っていられるのだ。自然と共生するというのは、「人間が自然を守る」ということではなく、人間と自然が対等な関係を結ぶことではなかったか。」

 

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  写真展のほんの数日前、テレビのドキュメンタリー番組を観た。NHK BS1スペシャル「ヒグマを叱る男~世界自然遺産・知床~」昨年末放映されて番組の再放送である。
  以下番組HPからの引用
《舞台は、北海道・知床半島の「ルシャ」と呼ばれる地域。ここは、世界のヒグマ研究者が「奇跡だ」と驚く秘境だという。その理由は、半世紀以上にわたって人間とヒグマが共存してきたこと。驚くべき彼らの営みにカメラが密着する。番組では、2005年に世界自然遺産に登録された知床半島・ルシャにある作業小屋「番屋」を取材。ここには14人の漁師が泊まり込み、長年漁に励んでいる。朝、彼らが港に行くと、待っているのは漁のおこぼれにありつこうとするヒグマたちだ。昼、浜で網をつくろっていると、すぐ脇をヒグマの親子が通る。そして夜、入浴する漁師をヒグマがのぞく。普通なら悲鳴を上げてしまうところだが、漁師たちは冷静。決して銃を持ち出すことはない。ただ、ヒグマが近づき過ぎると、「コラ、向こうへ行け!」と怒鳴るという。50頭ほどのヒグマと54年間“共存”してきた漁師たち。この半世紀、ヒグマに襲われてけがをした人は誰もいない。北海道の秘境から、人と自然の向き合い方を考える。》以上引用

 IMG_2719 ヒグマが自然の中で暮らせるように人工物である橋を撤去することをユネスコが要請している。老いてなお元気な83歳の漁師の親方 大瀬初三郎さんが諭すように呟く。
                「なにも草や木だけが自然ではない
                      そこで働いてる人間も自然だから
                         線を引くことはな‪い」‬

  人間と自然の対等な共存ということ、写真家と漁師の二人が左右のスピーカーで同じことを言う。思わずハッとする。否応なく視点を変えられるのだ。3月11日を迎える。人間は自然と共存することと180°対極に来てしまった気がする。進歩と言う言葉に騙されてきたのかも知れない。‬一つの選択肢のみを  盲信してしまった。

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